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名古屋地方裁判所 昭和33年(行)21号 判決 1976年4月28日

原告 平沢修一

被告 名古屋中税務署長 ほか一名

訴訟代理人 榎本恒男 ほか三名

主文

一  原告の被告名古屋国税局長に対する訴を却下する。

二  被告名古屋中税務署長が、

1  原告の昭和二九年分所得税につき、昭和三〇年七月二八日付でなした総所得金額を二、〇七九、八〇〇円、所得税額を八五一、〇四〇円とする更正処分のうち、総所得金額につき一、七五八、〇〇〇円、所得税額につき総所得金額を一、七五八、〇〇〇円として算定した税額を超える部分、および過少申告加算税四二、五五〇円の賦課処分のうち、右所得税額の超過部分にかかる部分、

2  原告の昭和三二年分所得税につき、昭和三六年三月一〇日付でなした総所得金額を六〇四、八〇〇円、所得税額を一〇五、九六〇円とする決定処分のうち、総所得金額につき二一〇、六七三円、所得税額につき総所得金額を二一〇、六七三円として算定した税額を超える部分、および無申告加算税二六、二五〇円の賦課処分のうち、右所得税額の超過部分にかかる部分、

3  原告の昭和三三年分所得税につき、昭和三六年三月一〇日付でなした総所得金額を八五五、八〇〇円、所得税額を一五三、七五〇円とする決定処分のうち、総所得金額につき四八四、八八四円、所得税額につき総所得金額を四八四、八八四円として算定した税額を超える部分、および無申告加算税三八、二五〇円の賦課処分のうち、右所得税額の超過部分にかかる部分をいずれも取消す。

三  原告の被告名古屋中税務署長に対するその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、原告と被告名古屋国税局長との間に生じた分は原告の負担とし、原告と被告名古屋中税務署長との間に生じた分はこれを一〇分し、その一は同被告の負担とし、その余は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判<省略>

第二当事者の主張

(請求原因)<省略>

(本案前の抗弁)

一  被告名古屋国税局長の抗弁

原告が被告名古屋国税局長に対して取消を求めている課税処分(原告の昭和二九年分所得税について同被告が昭和三三年二月四日付でなした審査決定)は昭和三四年一月二八日付で同被告により取消されているので、その取消を求める本訴は訴訟の対象を欠くものとして、却下されるべきである。

すなわち、原告は、昭和二九年中を通じて愛群を経営していたとして更正処分(昭和三〇年七月二八日付)を受けていたものであるが、昭和三〇年八月二二日ごろ、被告名古屋国税局長に対して審査請求をなし、その営業権の一切を昭和二九年一〇月一日付をもつて訴外神谷初子に譲渡した旨の公正証言を提示した。そこで被告名古屋国税局長は、昭和二九年一〇月ないし一二月分の右営業所得が右訴外神谷初子に帰属するものと認定し、当該期間に対応する事業所得金額を原告の同年中の事業所得額から減ずることとし、昭和三三年二月四日、原更正処分(昭和三〇年七月二八日付)を一部取消す旨の審査決定をなし、同月一九日付通知書をもつて原告に通知した。

1 しかし、その後原告が昭和二九年中を通じて愛群を経営していたことが判明し、右原告の申し出が真実に反し、右審査決定は明らかに原告の作為にもとづく錯誤による処分であつて、原更正処分が正当であると認められたので、被告名古屋国税局長は、再審相当事由ありとして、昭和三四年一月二八日付で右審査決定を取消し、改めて審査請求棄却の再審決定をしたものである。

2 仮に再審相当事由がないとしても、右審査決定の取消は当然無効となるのではなく、これに対する不服の訴をもつてはじめて取消されるべきところ、その出訴期間内に右の如き不服の訴が提起されなかつたから、右取消決定は有効である。

よつて、原告が主張している処分は取消されて存在しないことになるので、該処分の取消を求める本訴請求はその対象を欠き不適法である。

二  被告名古屋中税務署長の抗弁

本訴請求のうち、原告の昭和二九年分の所得税について被告が昭和三〇年七月二八日付でなした更正処分の取消を求める訴(昭和四一年(行ウ)第一一号事件)は、出訴期間経過後に提起されたもので不適法であるから、却下されるべきである。

すなわち、右更正処分取消の訴は、審査決定の通知を受けた日から三ケ月以内に提起しなければならないものである(当時の所得税法昭和三二年法律第一七〇号五一条二項)ところ、原告に対し審査決定通知のあつたのは昭和三四年一月二九日であり、原告が本訴を提起したのは昭和四一年三月八日であるから、本訴は出訴期間経過後に提起された不適法なものであることは明らかである。

なお、行政事件訴訟法(以下、行訴法という)二〇条は本訴に適用される余地がないものである。すなわち、

1 本訴は、審査決定の取消の訴(昭和三三年(行)第二一号事件)に併合して提起されたものではなく、別訴として提起された後に併合されたものであるから、行訴法二〇条の適用の余地はない。

2 行訴法二〇条の立法趣旨は、同法一〇条二項がいわゆる原処分主義を採用しているところ、誤つて裁決取消訴訟のみを提起して原処分の違法を争う者があるかもしれず、このような誤解から出訴期間を徒過して権利の救済の機会が失われてはならないという配慮から認められたものである。したがつて、同法二〇条は特別の法令によつて、原処分主義が排除されていて、裁決取消訴訟で原処分の違法が争える場合には全く適用のない規定であると解される。これを本件についてみると、審査決定の取消の訴(昭和三三年(行)二一号事件)は、行訴法施行の際現に係属していたのであるから、同法一〇条二項の適用はなく(行訴法附則五条)、その審査決定取消訴訟において(その訴が適法のものであればであるが。)更正処分の違法を本来争うことができる筋合である。したがつて、本件の場合には、同法二〇条適用の余地はないものである。

3 行訴法二〇条の場合も請求の追加的併合である以上、併合の一般的要件を備えなければならないので、裁決取消の訴が適法に係属していることが必要である。これを本件についてみるに、審査決定取消の訴(昭和三三年(行)第二一号事件)は、被告名古屋国税局長の本案前の抗弁のとおり、訴の対象を欠く不適法なものであるから、同法二〇条の適用がないことは明らかである。

このように、本訴はいかなる観点よりしても、出訴期間を徒過した不適法なものである。

(請求原因に対する被告らの認否)<省略>

(被告らの主張)<省略>

(本案前の抗弁に対する原告の反論)

一  被告名古屋国税局長の抗弁について

同被告主張のごとき更正処分、更正処分を一部取消す旨の審査決定、同審査決定の取消決定および再審査決定がそれぞれなされ、いずれも原告に通知されたことは認めるが、同被告の主張は争う。

二  被告中税務署長の抗弁について

同被告の主張は争う。本件訴訟(昭和三三年(行)二一号、同四一年(行ウ)一一号事件)の経過は次のとおりであり、本訴は出訴期間を経過していないものである。すなわち、

(一) 原告は、昭和三三年五月一七日、名古屋中税務署長を被告として、原告の昭和二九年分の所得税額を争う訴(昭和三三年(行)二一号事件)を提起した。

(二) 原告は、昭和三九年一一月一九日付訴状訂正許可申立書をもつて、被告を名古屋国税局長とするよう訂正を求め、同年一二月三日裁判所の右許可決定があつた。しかし、右被告の訂正を求めたことは誤りであつた。

(三) 原告は、昭和四一年三月八日付訴状をもつて、再び名古屋中税務署長を被告として、原告の昭和二九年分所得税の更正処分を争う訴(昭和四一年(行ウ)一一号事件)を前訴に追加的併合して提起した。

(四) 右昭和四一年(行ウ)一一号事件は、行訴法一九条により昭和三三年(行)二一号事件に追加的併合して提起したものであり、請求の趣旨、原因をほぼ同じくする訴訟が受理され、現在に至るまで係争中である。

したがつて、右のような訴訟経過からも明らかなとおり、原告は昭和三三年以来一貫して、原告の昭和二九年分の所得税額について争つているのであるから、被告名古屋中税務署長に対する昭和四一年(行ウ)一一号事件は、昭和三三年五月一七日に提起したものとみなされるべきであり、出訴期間経過後に提起されたとの被告の主張は失当である。

(被告らの主張に対する原告の認否と反論)<省略>

第三証拠<省略>

理由

第一本案前の抗弁についての判断

一  被告名古屋国税局長の抗弁について

原告の昭和二九年分の所得について被告名古屋国税局長が昭和三三年二月四日付でなした審査決定は昭和三四年一月二八日付で同被告により取消されていることは当事者間に争いがない。そうとすれば、原告が右被告に対して取消を求めている審査決定は既に取消されて効力を有しないものであるから、その取消を求める訴の利益はないものといわなければならない。従つて、被告名古屋国税局長の本案前の抗弁は理由があり、原告の同被告に対する訴(昭和三三年(行)二一号事件)は不適法として却下を免れない。

二  被告名古屋中税務署長の抗弁について

被告は、本訴請求のうち、原告の昭和二九年分所得税について被告が昭和三〇年七月二八日付でなした更正処分の取消を求める訴(昭和四一年(行ウ)一一号)は、出訴期間経過後に提起された不適法なものであると主張する。そして、更正処分取消の訴は審査決定の通知を受けた日から三ケ月以内に提起しなければならないものであるところ、<証拠省略>によれば名古屋国税局長の最終審査決定のあつたのは昭和三四年一月二八日であり、本件記録によれば本訴は昭和四一年三月八日に提起されたものであることが明らかである。

しかしながら、本訴は行訴法二〇条によりその出訴期間内に提起されたものとみるべきである。被告は本件については右条項が適用されない旨主張するけれども、いずれも採用することができない。すなわち、本件記録によれば、本件訴訟の経過は原告の主張(本案前の抗弁に対する反論の二)のとおりである。従つて、本訴(昭和四一年(行ウ)一一号事件)は審査決定取消の訴(昭和三三年(行)二一号事件)に追加的併合して提起されたものであるところ、右審査決定取消の訴はその提起後に被告名古屋国税局長によつて同訴訟の対象たる審査決定が取消されたため以後不適法な訴となり、その結果として原処分の違法も主張できないことになつた訳である。そこで原告としては、右審査決定取消後、訴を原処分取消の訴に変更すべきであつたところ、反対に被告を誤つて、名古屋中税務署長から名古屋国税局長に変更してしまつたため、後に被告を名古屋中税務署長とする本訴を追加的併合して提起するに至つたものであることが明らかである。本訴は、右のような経過で審査決定取消の訴の係属中に追加的併合して提起されたものであるから行訴法二〇条の適用があると解するのが相当であり、昭和三三年五月一七日提起されたものとみなされるから、出訴期間徒過の瑕疵はないというべきである。これを実質的にみても、原告が昭和三三年五月一七日に訴提起以来一貫して求めていることは、昭和二九年分の所得税課税処分の取消であり、その違法と主張するところも同一の事由であると認められるのであつて、原告の昭和二九年分の更正処分の取消を求める訴が出訴期間を経過している旨の被告の主張は理由がないものである。よつて、被告の本案前の抗弁は理由がない。

第二事業所得の帰属主体についての判断<省略>

第三課税処分の内容の当否についての判断<省略>

第四以上の次第で、原告の被告名古屋国税局長に対する本件訴は不適法として却下し、被告名古屋中税務署長に対する本訴請求は、前記第三の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 山田義光 窪田季夫 小熊桂)

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